広島には、高校生時代に修学旅行で行ったのが最後ですので、約18年ぶりの訪問でした。
9月に入ってからの訪問でしたので、多少暑さも和らいでいると期待したのですが、まだまだ残暑厳しく、広島独特の高い湿度と相まって、かなり体力を消耗しました。
広島市内はご存知のとおり、路面電車が市内中を駆け巡っており、建築見学には最適でしたが、市内から離れた場所にもいくつか見学予定の建築があり、今回は広島在住の親戚のご好意に甘え、道案内兼運転手をお願いしてしまいました。
まずはじめにご紹介する建物は、宿泊したホテルの近隣に立っている医院兼住宅です。
残念ながら設計者は不明ですが、偶然通りかかったところで足を止めました。
コンクリートとガラスの近代建築ですが、竣工後間もないようで非常にきれいな外観で、デザインもシンプルなところが私好みの建築です。
次に向かったのは、「西消防署」。設計は山本理顕氏。
広島市では、1995年より、「ピース&クリエイト事業」という名目で、市内の公共建物のデザイン性を高め、将来的に質の高い公共建築を残していこうという事業を行っています。
そのひとつが、西消防署。
消防署でありながら各階の外周部分が回廊式になっており、一般の人でも自由に歩き回れ、かつ内部での活動状況が見学できる構成になっています。
ファサードはガラスルーバーになっており、内部のガラス張りの居室空間への日射調整の役目を持っているようです。
かなりバブリーな建物だと感じましたが、無理な平面構成やデザイン重視といった感じはなく、すっきりと納まっているといった印象でした。
回廊を歩いていると、職員さんから、「見学ですか~」と気さくに声をかけられ、余計に建物の印象までよくなってしまいました。
次は、「広島平和記念公園」
18年前にも訪れた場所ですが、まずは原爆ドーム。設計はヤン・レツル。
広島の象徴的な建物です。内部は鉄骨でガチガチに補強されており、残っている外壁もかなりきれいに修復されているのが、逆に違和感を感じました。
次は、国立追悼平和記念館。設計は丹下健三・都市・建築設計研究所。
建物のほとんどが地下に埋もれてしまっており、なおかつ内部の構成、コンセプトもよくわからない、なんとも評価しがたい建物でした。
次は、「平和記念資料館」。設計は丹下健三・都市・建築設計研究所。
今回の建築見学ツアーで一番見たいと思っていた建物です。
恥ずかしい話ですが、高校生のときには丹下健三という名前すら知りませんでした。
もちろん、建物を見学する・・・などという考えもまったくなかったのをよく覚えています。
少し離れた場所から正面を眺めたのですが、プロポーションのすばらしさは抜群でした。
建築の良し悪しはプロポーションで決まると、どこかの建築家がおっしゃっていましたが、確かにいえることだと思います。
ピロティーの高さ、建物の左右の長さ、RCによるルーバーのピッチ、どれをとっても単純に美しいなと感じました。
建物自体は全面改修が行われたようで、外観も非常にきれいな姿になっていました。
ピロティーを支えている柱の湾曲形状は明らかにコルビジェの影響からだと思われますが、特に違和感は感じませんでした。
RCのルーバーも写真ではわかりづらいですが根元部分と先端部分で2段階の厚さになっており、先端部分は少し細くなっています。
おそらくファサードとしてのシャープさや開口部とのバランスからそのようなディテールになっているのだと思います。
丹下氏設計の建物では、代々木オリンピックプールとこの建物がずば抜けてすばらしいと思っています。
次は、最近設置されたモニュメントの「平和の門」です。設計はJ.M.ヴィルモット+C.アルテール。
全面ガラスで覆われたた門が連続して立ち並んでいます。ガラスには「平和」という文言を18の文字と49の言語で印刷されています。夜間は内部に仕込まれた照明が点灯し、象徴的に浮かび上がるコンセプトとなっています。残念ながら日中の見学しかできませんでした。
次は、広島を拠点に設計活動を行っています、村上徹氏のアトリエです。
非常にシンプルなBOX型と大胆な開口により構成されたデザインとなっています。
丸い開口部はガラスブロックがはめ込まれていると創造していたのですが、実際は
フロートガラスをシールのみで、外壁面とツラあわせで納めています。
すごくきれいな納まりでした。
周辺の樹木に囲まれたひっそりとした建物ですが、すばらしい建築でした。
次は、「広島市現代美術館」。設計は黒川記章。
私はあまり大型建築は興味がないのですが、折角だからと訪れたところ休館日でした。
この建物は日本建築学会賞を受賞しています。次回広島を訪れたときは内部も見学したいと思います。
次は、「グラスオフィス・ヒロシマ」。設計は横河設計工房。
三方がガラスのカーテンウォールとなっており、各階の外壁面に設置されたキャットゥークには電動のロールスクリーンが設置されており、日射調整できる仕組みになっているそうです。実際によーく見てみると、確かにロールスクリーンらしきものがついていましたが、一箇所も下がっているところはありませんでした。
エントランスホールは2層吹き抜けとなっており、白い壁と、白い階段が象徴的にデザインされており、すっきりとした横河さんらしい空間になっていました。
次は、「M’s Gate」。設計は吉柳満アトリエ。
道路拡幅に当たり、細長く削られた敷地に建つ、ガソリンスタンドです。
一見、ガソリンスタンドと気がつかないほどモダンなデザインとなっています。
店長にお願いをし、特別に内部(2階)も見学させてもらいました。
コンクリート打放し仕上げの門方フレームが給油スペースを囲っており、両サイドに
事務所や倉庫が配置されています。
吉柳氏らしい、力強くかつシャープなデザインとなっていました。
次は、「広島市環境局中工場」。設計は谷口吉生氏。
普段、美術館や、水族館などを設計している谷口氏が設計をしたゴミ焼却場です。
広島市の中心部からまっすぐに伸びる幹線道路の突き当たりにあります。見学者用通路がこの幹線道路の軸にあわせ巨大なBOXを突き抜けており、西消防署と同じで自由に見学者通路を歩くことができます。写真でもわかるとおりガラスで覆われているため、清掃工場の内部の様子がわかる仕組みとなっています。
通路を突き抜けると、広島の海を眺めることができる展望スペースとなっており、すばらしい眺望が開けているのですが、ほとんど人影はありませんでした。
谷口氏らしい、非常にシンプルなデザインでした。
次は、「基町高校」。設計は原広司+アトリエ・ファイ建築研究所。
この建物のもピース&クリエイト事業の一環として建てられた市立の高校です。
受付に行き、内部を少しだけ見学してもいいですかと訪ねたところ、教頭先生が出てこられ、内部を案内していただくことになってしまいました。お忙しいところ、本当にありがとうございました。
教頭先生もおっしゃっていましたが、ピース&クリエイト事業の一環ということでかなりの補助金が出ているため、正直相当お金がかかっているそうです。
1階部分はあえてピロティーとすることで開放空間とし、学生の自由な活動スペースとなっているそうです。
エスカレータをあがると4階に全ての普通教室が配置されており、4層吹き抜けの半屋外空間を挟む形で教室が配置されていました。
教頭先生いわく、あえて同フロアーに1年生から3年生までの教室を配置することで、下級生が上級生の勉強に対する姿勢を見て学ぶことができればというコンセプトだそうです。
教室も案内させてもらいましたが、南面のガラスファサードからの日射は強烈らしく、とても空調でまかないきれないとおっしゃっていました。
しかしながらその他の体育館やトイレ、公会堂などなどとても市立の高校とは思えない恵まれた環境でした。
O教頭先生、ありがとうございました。
次は基町高校のすぐ裏手にあたる場所に建っている「長寿園・基町高層アパート」。設計は大橋建築設計事務所+広島市。
日本住宅史に残る大作といわれています。1972年~1976年に建てられた大規模再開発です。
住棟は通風や採光を確保するため、「く」の字に配置されています。一番の特徴はエレベーターが2層ごとに停止するシステムとなっており、停止しない階の人は、共用廊下に設けられた階段で1層分上がり自宅へアプローチする構成となっていることです。
その結果、エレベーターが止まらない階には共用廊下が必要ないのでその分専用面積を大きくできるといったメリットがありましたが、建設後30数年がたち、居住者の高齢化にともない、各階に止まらないエレベーターが大変な問題になっているそうです。
実際、見学をしていたときにすれ違った住人の方はほとんどが高齢の方たちでした。
もうひとつの試みとして、高層アパートを囲むように中央部分にショッピングモールが配置されているのですが、こちらも時代の流れなのか、シャッター通りに近い状況になっていました。
次は最後となります。「ホテルフレックス」。設計は宮崎浩/プランツアソシエツ。
京橋川沿いに建つ、デザイナーズホテルです。
コンクリート打放しの列柱が印象的で宮崎氏らしい、シンプルでシャープな外観となっています。
建物の大きさの割りにエントランスホールが小さく、かつ外階段から入る2階のレストラン入り口の間口寸法がかなり狭いのが妙に気になりました。
これで今回の広島建築見学ツアーは終了。
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